紆余曲折ありながらも、曹操は中華の、大勢力へと成長して行きました。
曹操の悪口を書き連ねた陳琳
なお当時、中国の北部には、曹操をさらに上回る、超・巨大勢力の
袁紹(えんしょう)と言う武将が、いました。
彼は中国統一を目指し、大軍で南下して来ます。
あわや曹操も、大ピンチに追い込まれますが・・最大の決戦
『官渡(かんと)の戦い』で、参謀が知恵を絞りつくしたり、運が味方するなどして大逆転勝利! 曹操は、ついに中華1の勢力へと、おどり出ます。
さて、かつて袁紹には、陳琳(ちんりん)という詩人が、仕えていました。
彼は曹操との決戦の前、より多くの味方を、集めるため、
檄文(げきぶん)とよばれる手紙を、中国全土にバラまいたのですが・・
そこには、曹操の父親は、乞食だった・・などという内容にはじまり
曹操一族が、これまでいかに卑劣で、自分勝手で、人々を苦しめたかと・・
ようするに、悪口の限りが、書き綴ってあり、
だから曹操を、みんなで滅ぼそうといった、内容でした。
陳琳と曹操
袁紹が敗北すると、陳琳は身柄を、拘束されました。
そして、ある日、こう告げられました。
曹操様が、お主を連れてくるようにと、ご所望だ!
陳琳は、思いました。
ワシは処刑されるにちがいない。それも、どんな惨たらしい、刑罰か・・。
さて、彼と対面した曹操は、言いました。
お主の檄文を読んだ。ワシの事はともかく、父や祖父の事まで貶めるとは、ずいぶん、ひどいではないか!
もはや、何ひとつ、言い訳はありませぬ。
・・が、しかしだ。悪評を書きながら、文章としての配列は、すばらしい。それに、どことなく品格が、にじみ出ておる。それから、読み上げたときの音調も、人のココロを掴む、独特の響きがある。
陳琳!お主には人並み外れた、詩の才能がある!!これからは文学の世界で、詩を書き続けるが良い。・・以上だ!
陳琳は、あまりの予想外に、呆然としました。
曹操!常人とはモノの見かたが、根底から違う。いったい中華に、どんな世界を、作り上げようと言うのか・・ワシも、見届けたくなったぞ!
こののち、陳琳は時代を代表する、詩人の1人となり、その作風は、
後世まで、多くの文人に、影響を与える事となりました。
曹操の価値観と、才能を愛する性格が、もたらした出来事と言えます。
そして三国志の時代へ
さて、この時点で曹操は、中国の真ん中と、北側を手中に収め、
残るは、南だけになりました。
中国統一の総仕上げと、曹操は軍を進めますが、
南の最大勢力、孫権は強力な水軍を、持っており
『赤壁の戦い』と呼ばれる水上の決戦で、まさかの撃退をされてしまいます。
また・・その後、どさくさに紛れて劉備が、南西の山奥を占拠して、国を作り、
かくして曹操の治める魏(ぎ)の国、孫権の治める呉(ご)の国、劉備の治める蜀(しょく)の国の3つで、
ここからが本当の意味での、三国志の始まりとなります。
曹操VS劉備/孫権
とはいえ、国力的には、中国の中心地と北を、まるまる支配下に置いている
曹操が、頭1つぬけて、圧倒的でしたので、
はじめ劉備と孫権は、互いに手を結んで、対抗しました。
なかでも、劉備の名将・関羽の活躍と、戦闘力はすさまじく
曹操軍は防衛線をやぶられ、あわや本拠地へ、攻め込まれそうな状況まで
追い込まれてしまいます。
曹操サイドからすれば、いぜん関羽を捕虜にしたとき、
「あのとき、見逃していなければ!」と、思ってしまいそうですが・・。
しかし、ここで曹操の軍師が、並外れた外交力を発揮。
土壇場で、孫権を曹操の味方に、鞍替えさせる作戦に、成功しました。
これにより関羽は、とつじょ背後を、孫権軍に襲われ
討ち取られてしまいました。孫権軍は関羽の亡骸を、曹操へ送りました。
英雄・曹操と名将・関羽
曹操は、関羽の首を前にして、言いました。
亡き関羽将軍には官位を授け、最大限に手厚い葬儀で、弔うのだ。
しかし、それを聞いた家臣は、言いました。
お待ち下され。敵の武将を、そのように弔うなど、聞いたコトがありませぬ。
それも、われらを、さんざん苦しめた者ですぞ!
しかし曹操は、答えました。
よいか、この曹操に仕える者は、曹操だけを見てはならぬ。
敵・味方を越え、この中華のすべてを、見据える者でなければならぬ!
すなわち、この関羽は、100年先、1000年先にも
伝説となるにふさわしい名将であり、丁重に弔い、語り継がれなければならぬ!
かくして、関羽は劉備の1武将というだけでなく、
中国全土に語り継がれ、のちの世には神様となって、人々の心に宿りました。
神となった名将
さて、あなたは、これまで横浜の中華街に、行った事はあるでしょうか。
そこには関羽を奉る、関帝廟(かんていびょう)が、存在しています。
ほかにも神戸、長崎などの各所や・・日本以外でも
台湾・マレーシア・ベトナム・韓国・そして、もちろん
中国本土の各地にも、関帝廟は存在しています。
かつて関羽は劉備と、死ぬときは一緒と、誓いをたてました。
ところが、その願いは叶わず・・それどころか最後は、最大の敵であった、
曹操のもとで、弔われました。
ですが、この経緯があったからこそ、
後世まで語り継がれる、伝説になったという・・
なんとも数奇な運命の、2人です。
もし、このとき曹操が
敵将の首など、捨て置け!われらが苦戦した話なぞ、残すでないぞ!!
と、命じていたならば・・。
今日、これほどまで残り、奉られてはいなかった、可能性があります。
三国志というのは、国どうしの、覇権争いのモノガタリですが、
この曹操と関羽の関係は、その中にあっても特別。
国境の枠さえ超えた、英雄どうしの、つながりを感じます。
英雄?悪人?詩人?
・・さて最後に。曹操は武将であり、政治家であり、
そして時代を代表する、詩人でもありました。
彼の遺した詩に、こんな文ではじまる、1つがあります。
酒に対しては 当(まさ)に歌うべし 人生は幾何(いくばく)ぞ
ひとの一生は、朝露のように、はかない。
過去をふりかえれば、人生はツラい事ばかりだ。
でも、せめて今は酒を飲み、歌をうたって忘れよう
・・といった内容に続き、
なんとも、繊細な内容です。
よく三国志演技の曹操のイメージは、他人がどうなろうと
手段をえらばない、唯我独尊。
そして、大胆な策略家という性格で、描かれます。
しかし、実際にのこされた詩は、繊細でうつくしい作品が多く、
天才、大悪人、英雄、詩人・・いったい、どれが本当の顔なのか?
考えるほどにフシギで、ワクワクし、心を惹かれてしまう人物
それが曹操です。
あなたも、ぜひ機会がありましたら、三国志のストーリーと合わせ、
こうした1人1人の、ニンゲンの探求も、楽しんでみてください。
曹操が主役のマンガ『蒼天航路』
なお、すこし前の作品ですが・・曹操を主人公とした『蒼天航路(そうてんこうろ)』
というマンガが、ありまして、
そのストーリーは濃く、熱く、三国志を、あらたな視点で描いています。
一部の曹操ファンの間では、バイブルとも言われる名作です。
もし、ご興味がありましたら、いちど是非
読んでみて下さい。
きっと、あなたが今まで読んだ、どのマンガとも、違うと思います。
それでは今回、曹操のモノガタリにつきましては、
ここまでにしたいと、思います。
ご覧いただき、ありがとうございました。