著者が、名だたる声優の大塚明夫さんで、タイトルが『声優魂』
・・と、なれば。
“声優のすばらしさ”や“夢を叶える大切さ”
さぞ、そんな内容で、溢れていると、思われるでしょうか?
ところが・・もし「声優を目指したい」という方が、読んだとき
やっぱり、止めておこう・・と、Uターンする人が、続出してしまう。
そんな内容も含まれた、一冊となっています。
いったい、どういうコトなのでしょうか?
夢を追い求めるすべての人へ
こんにちは。
ぼくは書店でのキャッチコピーに、内容が気になってしまい、本書を手に取りました。
もし声優と言わず、いま何か夢をもっており、かつ・・
それが世間的に“達成は厳しい”と言われがちな、ジャンルの場合、
挑戦するまえに、本書を読まれると、とても良いと思います。
そうした人へ、あたかも語り掛けるような文体で、書かれています。
苛烈で容赦なく・・それでいて、本心からあなたを想う
大塚さんの優しさが、あふれた一冊となっています。
以下、その一部分や、概要について、お伝えします。
声優だけはやめておけ
目次のあと、いきなり以下のようなコトバが、書かれています。
「声優になりたい」やつはバカである
ただ、これだけでは、読者サイドも・・
逆説的なエールかな?
ああ、きっと謙虚に、こんな風に言われているんだろう!
とも、受け取れるのですが・・この“バカ”というのは、
ほんとうの意味での“バカ”であり
“おろか者”というニュアンスで、使われています。
そのあと、さらに畳み掛けるように
・才能なき声優は、オトナの玩具で終わる
・無理ゲーというヤツです
というように、声優を目指したい人へ向け
1つ1つ丁寧に、論拠まで挙げて、連続で否定されます。
それでも、這い上がって来ようとする人は
甘くない世界ってコトですよね?理解しています!
覚悟はできています!
・・と、食らいついて来そうですが、そのコトさえ、見越して
大塚明夫「いや、あなたの場合、残念だけど・・」
と突き落とす、徹底ぶりです。
あなたの夢は本物?
世間的に夢を持つのは、とても素晴らしい事と、言われます。
小学校の文集などでは、よく“将来なりたいもの”といった内容があり。
「サッカー選手になりたいです!」
「お花屋さんになりたいです!」
と、子ども達が言うと
あら、ステキ。〇〇ちゃんなら、きっとなれるわ!
・・と、よろこばれ、応援されるものです。
こんなとき「とくに夢はないです」と、現実的なことを答えると
「そんな悲しいこと言わないで、ほら・・何かあるでしょ?」
なんて言われ、残念な雰囲気になることさえ、あります。
TVや新聞でも、折に触れて“こどもが憧れる職業ベスト5”といった内容が、ありますね。
さらには、“あきらめない大切さ”も、語られることが多く
「ムリだ」なんて言う人に負けないで!とも言われます。
では、なぜ大塚さんは、それと真逆のコトを、呼び掛けるのでしょうか?
夢を持とうとする・・その陰には、大きな負の側面も、含まれているからです。
夢を持たないと圧力
夢を持たないと・・という暗黙の圧力は
ときに“ニセモノの夢”も、たくさん生んで、しまいがちです。
そして深層心理では、その職業そのものが、そこまで好きではないにも関わらず、
じぶんのココロに、ウソをついてしまう人も、大勢います。
ニセの想いに、大切な人生の、時間と労力をさんざん費やしたあげく
挫折して終わりでは、悲しすぎますね。
ちなみに、声優を志望する人の中には
・「あの〇〇さん!」と、ちやほやされたい。
・有名になって、大勢を見返したい。
という思いを持っている人も、多いのですが
大塚さんは「その方が、正直でいいじゃないか!」と語っています。
それを覆い隠して
・そんな、邪まな理由じゃありません!
・みんなにユメを与えたいんです!
なんて、言っていると「いい様に利用されて、終わりだぞ!」と忠告しています。
ほんとうに芝居が好き?
なお大塚明夫さんの立場からすれば、声優の志望者は多い方が、得な立場。
「がんばれば、あなた達も目指せますよ!」と言うことも、出来たと思います。
しかし現実は、第一線で活躍できる人は、ごく一握りという事実に加え
そのステージに立ったとしても、次々と競争にさらされ、残酷なレースが待ち受けています。
・そうまでして、本当に演じるのが好きですか?
本書は、そのことを、強く問いかけている気がします。
志望者の“本当の幸せ”のため、あえて現実を語る、
なんて“優しい厳しさ”だろうかと、思わずにはいられません。
大塚明夫の魂の演技
なお本書は、声優の職業がどうこうといった、内容のみならず
大塚さんだからこそ語れる、芝居の奥深さについても、たっぷりと語られています。
たとえば、物語の中で“相手を騙そう”としている配役の、
迫真のセリフを、言うとします。
もちろん大塚さんは、ストーリーを理解しているので、それがウソのコトバと、知っています。
しかし作中の人物は、わずかでもウソの雰囲気が、漏れ出ないよう、
じぶんのココロをも『これは真実』と諭した状態で、相手に迫る・・
という、2重心理の演技さえ、出来てしまうと言います。
ほんとうはウソなのだけど、じぶんのココロを騙し、真実であるかのように語る
・・という人物を、演じる。
なんだか、聞くだけで頭が、混乱しそうですが、
ここまでするからこそ、ほんとうの魂が、声に宿ると言います。
深遠で、なんて面白い・・これが、役者の世界なのかと、感じずにはいられません。
ひとたび、この神髄に触れてしまうと
・声が良いと、言われるんです!
・声優の専門学校を、卒業しました!
・・といった、アドバンテージくらいは、
ほんとうに、わずかなものですね。
とはいえ、ハイリスク・ローリターンで、厳しいのが声優の世界。
理不尽で残酷で、大御所でも、明日をも知れない世界。
見た目は華やかでも、いつでも“中の人”は、きびしい・・
それでも演技が、大好きでたまらない、
さらなる物語の場を、追い求めてしまう。
冒頭の“おろかな“バカでなく、真性の“芝居バカ”こそ、最後まで残る。
そんな世界なのだと、感じさせられました。
まとめ
本書は、たとえアニメや声優のファンでなくても、タイトル通り“魂”のこもった
濃い、一冊です。
もし、ご興味が湧きましたら、ぜひ、いちど読んでみて下さい。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。